
雨季に入り時折しとしと鳴り響く雨音を聞きながら、空が真っ暗な深夜にビルマの竪琴を読み進めている。
物語では竪琴の響き、戦場での歌が重要な要素となっている。
それはどちらも、聴覚に関わる描写が含まれている。
本小説はさすが、数十年世に残っている小説なだけあって、聴覚以外の感覚の描写も素晴らしいのだが、特段に聴覚に関する文章が非常にしっくりくる。
私が、当時の日本兵の気持ちを想像できるかというと難しいが、同じミャンマーの空気を吸い、日本を思う気持ちは70年前も今も変わらないはずだ。
そして、ミャンマーにいる自分の感覚と合致したのが、以下の歌や声、音に関わる文章である。
こうした自分の耳に意識を向けながら、読み込む小説も良い。
良質な本があればどこにいたって人生は楽しい。
【私に引っかかった文章】
◆われわれはうたいながら、この目の前の景色を故郷の家の人たちに見せてやりたい、この歌の声をきかせてやりたい、と思いました。
◆「秋の月」や「からたちの花」や「野ばら」などは、いずれも私たちが子供のときから口ずさんでいる、いい節の歌です。私たちはうたっているうちに、われを忘れました。これらの歌にはみな、誰にとってもそれぞれの思い出がまつわっているものです。
◆「はにゅうの宿」も「庭の千草」も、日本人はこれがむかしからの日本の歌だと思っていますが、もともとはイギリスの古い歌の節なのです。
◆ビルマの音楽は雨の音をうつすことからはじまったということをききましたが、この国の音楽の伝統はふるく、国民は音楽ずきですから、楽器の種類も多くて、曲もなかなか複雑にむずかしく発達しています。
◆はでな、そして悲しい、心をゆるがすようなリズムです。
◆ほんとうに、われわれの友情、この熱帯の異国で楽しかったこと苦しかったこと、冒険や希望や幻滅、すべての人々の身の上の激変──、これらのものがこの曲にかたく結びついているのです。